日本音響エンジニアリングの河野と申します。
弊社は建築音響をはじめ騒音対策、ソリューション事業、データサイエンス事業などを行っており、建築音響の実績ではトップシェアを誇っています。
たとえば、ルームチューニングアイテムの柱状音響拡散体AGSは、スタジオや放送局のみならず、ホールなどの楽器演奏空間でも導入事例が増えております。2016年には、東京芸術大学の奏楽堂で開催された演奏会でAGSシリーズのアンク(ANKH)を活用していただき、「音場が良くなり演奏しやすくなった」、「今日の演奏は音が良い」と高評価をいただきました。
私個人の実績としては、性能、機能性、デザイン性を兼ね備えたインテリアである「Meleon」の開発を行いました。Meleonは置くだけで良質な音空間を創出できる、音響調整家具です。シェルフに音響アイテムを組みあわせるという世の中にない新しいジャンルの家具を開発しました。メレオンは木質の円柱を組み合わせた独自の音響アイテム「AGS」、吸音特性の異なるレザーとファブリックタイプから選べる吸音材の「Filler」、そしてAGSとFillerを置ける棚状の音響アイテム「Shelf」の3種類からなります。
これらは弊社の独自技術によって生まれたものであり、電気を使わずに反射音の緩和や音質の改善が可能です。
また、株式会社スタジオタンタ様でも建築音響デザイナーおよび意匠設計者として携わっており、同社の音楽スタジオのデザインではグッドデザイン賞を受賞いたしました。
電気音響と建築音響の違い
音響には「電気音響」と「建築音響」の2種類があります。
電気音響とは、スピーカーやマイクなどの音響設備で音を人工的に調整する仕掛けのことです。
一方、建築音響は建築物そのものが持つ音響の特性を指します。コンクリートのように固い素材でできた建物なら、内部で発せられた音が反射します。いわゆる「残響」というものですね。残響は空間の広さや壁・床の材質などに左右されます。大きい空間ほど長く響きますし、反射しやすい材質ほど大きく響きます。
建物内の音環境を改善するには、残響時間や周波数などをうまく調整することが重要です。その際、電気を使わずに、吸音材や床・壁の材質の変更で調整するのが建築音響における改善方法となります。
建築音響のメリット
建築音響に配慮することで、空間の居心地が良くなるだけでなく、音がクリアになり聞き取りやすく話しやすい環境をつくることができるといったメリットが生まれます。
具体的な事例を用途ごとにいくつか挙げてみます。
・ホテルの客室:居心地が良くなるという付加価値を部屋に与えることで、利用されやすくなります。
・レコーディングや収録の現場:細かな音を聞けるようになるため、より良質なレコーディングが可能となります。また、2チャンネルなど、少ないチャンネルで実際の音を再現できる点もメリットです。
・会議室:音がクリアになることで内容が伝わりやすくなり、会議の生産性が高まります。
・カフェ:環境音の質が良くなることで、居心地のいい空間を演出できます。
このように、建築音響はさまざまな場面で重要な役割を果たしているのです。
音の効果がわかる事例
音の効果がわかる具体例として、HIBINO株式会社の会議室を紹介します。
HIBINOには音や映像のコンテンツを体感できる会議室がありますが、Meleonを導入することにより、スピーカーから聞こえる音一つ一つを明瞭に際立たせる効果が生まれました。臨場感のある再生音をそのまま試聴できる音環境へと変化したということですね。
こうした効果は、反射音の緩和によって実現しています。一般に、音響調整が施されていない空間では、壁面から強い反射音が生じています。反射音が音源と干渉し、会話が聞きづらい環境になってしまうのです。
しかし、Meleonを導入すれば壁からの反射音を低減できます。音圧レベルを色で表示できる音響カメラ「SoundGraphy」で測定してみると、Meleonにより反射音が大きいことを示す赤色の範囲が小さくなっていることが確認できます。Shelfのみでも効果はありますが、FillerやAGSと組み合わせることでより反射音が小さくなり、音がクリアに聞こえるようになります。
Meleonの音響効果がわかる動画がございますので、ぜひご覧ください。
外部リンク:
見て&聴いて分かる!音響調整家具ーMeleon(メレオン)の音響効果